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治療体験談(1)

年齢(とし)のせいではなかった。

もとの明るさや元気、活動性を取り戻したYさん(奈良県・85歳)

監修:岡本新悟 先生(奈良県立医科大学臨床教授 岡本内科こどもクリニック院長)

体調の急激な変化に戸惑う家族

主治医の勧めで検査を

―成長ホルモン治療を行うようになったきっかけは、どんなことだったのですか?

一年前(2009年)2月ごろから、急に手足の震えが出始めて、食事もうまくとれないし、足がもたついてふらつくようになりました。直前まで自分で車を運転して外出していたのですから、本当に急な変調でした。

さらに、夏ごろからはうつ状態にもなってしまい、夜もよく眠れなくなりました。夜中に何度も何度もトイレに起きるし、でも一人では立ち上がることもできない、とても辛い状態でした。

実は、私自身はこの辺のことを全く覚えていないのですが、妻と娘が付きっきりで介護していてくれたそうです。年齢のせいかもしれないと、役所に相談して「要支援」から「要介護」になる始末。週に3日、介護施設に通って、風呂にも入れてもらっていました。

 もともと血圧が高かったので、何十年も診てもらっている主治医が、あまりにも元気がなくなって一日中ぼんやりとしている私の状態を心配して、ホルモンの分泌具合を調べる検査をしてくれました。30分おきに血液を取るのですが、その採血がまた、大変。私の手が震えるので針がうまく刺さらないのです。 検査の結果、成長ホルモンの分泌がかなり減っていたのだそうです。「こういう治療法があるけれどやってみましょうか」といわれたのが、成長ホルモンを補う治療でした。

注射をするのは娘の役目

2ヶ月くらいで震えがなくなる

―毎晩注射を打つということに対しての、不安などはありませんでしたか

治療法などの説明を受けたのは家族ですが、自己注射に対する戸惑いはなかったと思います。注射するのは娘の役目、私自身はされるがまま…。それでも、あまりにも手の震えがひどいものだから、手に何かを持たせて震えを納めてから注射をするなど、苦労していたようです。

治療を始めたのは昨年(2009年)の9月。その時は、医療費が1ヶ月に4万円弱かかっていました。でも、すぐに、5000円でできるようになりました。この治療に対して、公費の補助が出るようになったからです。

「2ヶ月くらい続けたら効果が出てきます」と言われて、家族は楽しみにしていたそうですが、私自身は、ここのところも覚えていません。ぼんやり座っていただけの状態ですから。

 それでも先生の言われた通り、だんだん調子が良くなって、気付いたら手の震えがとれていました。歩き方もふつうに戻って、半年も経つと足を持ち上げて歩くことができるようになりました。夜中にトイレに行く回数もぐんと減ったし、良く眠れるし・・。

私を介護施設や病院に連れて行くために、まず車に乗せるのがひと苦労だったと、娘は言いますが、今では、すっかり元通り。自分でさっさと乗ったり下りたりできるようになっています。

正直なところ、今は、介護施設にいるのが退屈で、自分はなぜこんなところにいるのだろうと思ってしまうのです。着替えもトイレも、何でも自分でできるのですから、介護サービスを受けるのは止めようかと思っています。

もう一度社交ダンスに挑戦したい

こんなに早く回復できるとは…

―これからのやりたいことはどんなことですか?

私はとても趣味の多い人間でした。カラオケも好き、社交ダンスも大好き、書道をはじめとして、市の主催する講座には7つほど通っていました。この病になってから、全部やらなくなりましたが、ダンスくらいはもう一度挑戦してみようかなと思い始めています。ダンスは、リハビリにもいいようですし、身体がステップを覚えているかもしれませんから…。

高校野球も相撲も見るのが大好き。特に相撲は、いつも番付表に白星や黒星を書き込んで観戦していました。この1年間は、テレビも見ていなかった、見たいとも思わなかったのです。でも今は違います。大いに楽しみたいと思っています。 

 私の記憶がすっぽり抜け落ちている間に、妻にはずいぶん苦労をかけたようで、3~4キロもやせたと言っています。妻には本当に感謝しています。

 主治医の先生が勧めてくれなければ、こういう病気や治療法があるなんて知ることはなかったでしょう。年齢からくる衰えだと思い込んで、そのまま車いす生活になっていたのかもしれないと思うと、ぞっとします。最初に先生から説明を聞いた時には、家族も、こんなに早く回復するとは思ってもなかったでしょう。

でも、お医者さまの中でも、まだそんなに知られている治療法ではないと聞きます。主治医の先生がたまたま専門医だったので、まず検査を受けることがきました。先生のおかげです。

主治医のコメント
Yさん良かったですね。がんばってダンスにトライしてください。

Yさんは、以前から高血圧で治療するうちに数年間からパーキンソン病に罹患され脳神経外科で治療を受けておられました。

しかし1年前ころから急に手の震えや歩行がたどたどしくなり、気分的にもうつ的で、もっともひどくなったときには奥様に両手を持ってもらいながらやっと診察室に入ることができる状態でした。私の質問にもほとんどうわのそらで返事ができません。

パーキンソン病の経過としてはあまりにも急な変化で下垂体機能低下症に似た症状でもあることから内分泌検査を行いましたところ、成長ホルモンが全く出ておらず、ソマトメジンC(IGF-I)も低いことから「成人成長ホルモン分泌不全症」と診断し成長ホルモン治療を開始しました。

治療を開始してから2ヶ月経ったころから、Yさんが一人で歩いて診察室に入ってこられるようになり、Yさんの奥様から「先生ありがとうございました。主人が見ちがえるように元気になりました。」と嬉しそうに報告いただきました。その後の快復は目を見張るようで「まるで廃人の状態から生き返ったような」という感じで、ご本人と奥様の体験談のとおりです。

Yさんの成長ホルモン分泌不全の原因は明らかにできませんでしたが、パーキンソン病と診断され治療を受けておられるなかに成長ホルモン分泌不全症がかくれていて、治療を受けておられない方があるのではないかと考えるようになりました。筋力低下や精神的にうつ状態、さらには原因不明の全身倦怠感を訴える患者さんには一度成長ホルモン分泌を含めた下垂体機能検査が必要であると考えております。このような患者さんがおられるということは私に大きな示唆を与えられたということであり、成長ホルモンの隠れた効果について改めて研究したいと考えております。


監修:岡本新悟 先生
奈良県立医科大学臨床教授 岡本内科こどもクリニック院長